中小企業の企業価値算定方法
1.中小企業の企業価値算定は年倍法
私が実務で行ってきた企業価値(株式価値)算定についてお話しします。
算定方法は原則3つを使います。①年倍法といわれる時価純資産+営業権、
②インカム・アプローチ方式であるDCF法、そして③マーケット・アプローチ方式ですが、
③は殆ど使ったことがありません。中小企業の企業価値算定では、上場している
類似している企業を抽出することが難しかったことが原因です。
①の年倍法はコスト・アプローチ方式とインカム・アプローチ方式のミックス型といえます。
過去の累積利益を評価すると共に、今後の収益見込みも織込むというものです。
資産負債を時価評価して時価純資産を算定しますが、時価評価の中心は有価証券と
不動産です。非上場株式は市場価格がありませんので、当該発行会社の財務内容を
調査してその財務内容の確認、即ち評価減の必要性がないか、チェックします。
DCF法については、直近3~4事業年度分の損益計算書(以下、PL)と
貸借対照表(BS)、販売管理費明細、及び今後の事業計画(少なくとも)
3事業年度の売上、経費、利益目標資料をベースに様々な経営指標例えば、
在庫期間、債権回収期間、債務支払期間等の予想数値を確認して、ベースと
なる予想PL、予想BS、企業価値計算表を作成します。
あくまで過去の決算実績を踏まえて将来を予想します。実績と乖離した場合
その理由をしっかりチェックします。バラ色の企業価値にならないようにします。
2.企業価値算定の注意点
私が経験したM&A案件で、ある中小企業を高値買いしてしまった事例を
ご紹介します。売り手は、インカム・アプローチで代表的な手法であるDCF法に
よる売却価格を提示してきました。
今後5年間の事業計画の収益をベースで企業価値が算定されていましたが、
過去の決算実績から乖離したものでした。過去の赤字、あるいは低迷した
決算は特殊な経営環境によるもので現在ではその対応策ができている、
といった説明でした。
本件を紹介してきた大手M&A仲介会社からも、特に売却価格についてコメントは
ありませんでした。日頃から中小企業の企業価値算定は時価純資産+営業権が
多い、と当該仲介会社の出版書籍でも紹介されていましたが---。
とにかく、本件を中小企業のM&Aでよく使われる、年倍法により
過去の営業利益平均値の3倍を営業権として加算した企業価値でDCF法式と比較
すると数億円程度高いものでした。結局、自社のシナジー効果を勘案して、
ほぼ売り手の希望価格を受入れる形で決着しました。
本件の教訓は2つあります。
・過去の決算実績が不振であった場合、売り手は、その原因を矮小化して将来の
収益計画をベースに、インカム・アプローチ方式で価格交渉を進めようとする。
コスト・アプローチ方式では、過去の実績が売却価格を下押しするため、
売り手は採用したがらない。しっかり、業績不振原因を確認すること。
・M&A仲介会社は、要するに売買成立を最優先する。買収する場合は、コストを
かけても買収側に立った仲介会社を起用する必要がある。