相続税を節税するための生前贈与対策

はじめに

相続税を節税するために生前贈与をどうすれば良いか、という課題は特に資産家の方が
悩まれます。どのような財産を、誰に、どれくらい相続するのか等によって、対策も変わって
きますが、今回は簡単なモデルとして、金融資産の生前贈与をどうするか見ていくことに
します。

1.贈与税の計算

先ず贈与税ですが、基礎控除が年110万円ありますので、年110万円を超える贈与に対して
贈与税がかかります。だからと言って年110万円までしか贈与しないということにこだわると、
特に多額の金融資産をお持ちの方は、生前に子供に贈与できる金額は金融資産のほんの一部に
過ぎない、希望する生前贈与金額に達しない、ということにもなりかねません。

下記の贈与税早見表をご覧ください。
直系尊属、例えば親から18歳の子供一人に300万円贈与する場合、19万円の贈与税が発生
します。これが高いか、安いかですが、税率(実効税率)にすると6.3%です。
因みに、株式や投資信託の金融商品から得られる売買益や配当金等は原則20%の税率です。
所得税の最高税率は45%です。

贈与税額早見表(直系尊属から18歳以上の子供への贈与)

2.相続税の計算

仮に遺産額が15,000万円で子ども2人だけが相続人とすれば、1人当たりの相続税は920万円総額1,840万円です。

(子どもだけが相続人になる場合)

3.相続税の限界税率と贈与税の実効税率

さて、将来の相続税を節税するために生前贈与をどのくらい実行すればよいか、という
課題について考えてみましょう。下記ケース1、ケース2ともに相続人は二人の子供だけ、
遺産額は現在15,000万円で将来も増減なし、という前提です。

ケース1) 財産15,000万円の内、子ども2人に1,000万円ずつ贈与した場合
相続税早見表と贈与税早見表を比較してみましょう。

子ども2人に1000万円ずつ贈与して遺産額が15,000→13,000万円に減少したとすれば、
相続税は1,840→1360万円、480万円減少します。遺産額2,000万円減少により相続税が
480万円減少したので480万円÷2,000万円=24.0%、これを限界税率と言います。

一方、子ども1人当たり1,000万円ずつ贈与することによる贈与税は、1人177万円、2人合計
354万円になります。1,000万円贈与に対して177万円の贈与税ですから、17.7%の税率に
なります。これを実効税率と言います。

このケースでは贈与税354万円発生するのに対して、相続税480万円が節税されるため、
子ども2人に2,000万円贈与する方が得になります。あるいは、贈与税実効税率17.7%に対し
相続税限界税率は24.0%ですから、税率面で贈与が相続よりも低いので得だ、とも言えます。

ケース2) 財産15,000万円の内、子ども2人に2,000万円ずつ贈与した場合
同様に、相続税早見表と贈与税早見表を比較してみましょう。

遺産額が4,000万円減少することにより、相続税は1,840→960万円、880万円節税に
なりました。(限界税率880万円÷4,000万円=22.0%)

一方、贈与税は1,172万円発生します。
(実効税率1,172万円÷4,000万円=29.3%)

4,000万円贈与による相続税節税額880万円に対し、贈与税発生額1,172万円になるため、
贈与により、292万円の損失が発生したということになります。あるいは贈与税実効税率が
29.3%となり、相続税限界税率22.0%を上回ってしまった、とも言えます。

4.課題

以上、単純な相続税節税額と贈与税発生額との比較で、その得失を考えてみましたが、
生前贈与をどこまで行うかという課題は、そう簡単なものではありません。

一方で、贈与はできるだけ早く行う必要があります。何故ならば、相続開始前に行った
暦年贈与は、7年前に遡って相続財産に加算されます。贈与税発生額<相続税節税額、という
努力が帳消しになるからです。

先ず、贈与する親のライフプランを作成しなければなりません。親自身の長生きリスク
対策や、人生をどのようにしたいのか、子どもに何を求めるのか・どうあってほしいのか、
親自身の財産、例えばご先祖から継承した不動産を子どもにどのように継承したいのか
等々、様々な課題があります。

あるいは、単に税金面での比較で、子どもに多額の贈与をして相続税を節税できたとしても、
子どもは多額の財産を手にして、勤労意欲をなくし浪費家になってしまった、という話は
枚挙に遑がありません。

地主の方が子どもに不動産を生前贈与することは、不動産取得税、登録免許税という
流通税が発生します。これらは相続の場合、不動産取得税は非課税、登録免許税は低い税率で
済みます。又、生前贈与せずに親自身が相続財産として残した場合に、「小規模宅地の特例」
による大きな相続税節税策を活用できる権利を失う可能性もあります。

税理士には税金計算しかお手伝いできません。ファイナンシャルプランナー、税理士、司法書士といった専門家の総合的なサポートが必要になります。