誰も書かなかった「買手としてのM&A判断基準」

1.投資リスクの把握

11月8日、買手としてのM&Aの進め方のフローチャート、留意点についてお話ししました。
本日はM&Aのリスクとリターンについて考えてみたいと思います。

下記の2つの事例をご覧下さい。ケース1をM&A対象とするかケース2を対象とするか。
どちらも買収額175,買収先の利益29です。直感的にケース2と判断されると思います。
何故か? 投資リスクがケース1>ケース2、だからです。

投資リスクとリターンを定量的に測る物差しは「投資リスク利益率」です。
投資リスク利益率=M&Aによる利益÷投資リスク額 です。事例ではケース2が14.5%、
ケース1は7%です。

この2つのケースは共に投資利益率が29÷175=16.6%です。 
私の経験では、M&A投資の判断基準として、このような投資利益率は使いません。
何故なら、この16.6%は投資リスクが反映されていないからです。16.6%は単に投下資金効率を
示すものです。

投資リスク利益率は投資リスクに対するリターン率です。そして投資リスクは投資額ではありません。
そのM&A投資先のB/Sの総資産そのものです。(現預金及びその等価物を除く)

2.投資リターンの把握

投資リターンは、買手がM&Aによって増加する取引利益、M&A先が計上する利益、
両社のシナジー効果から得られる利益(例えば、共同配送による運送コスト削減、
物流倉庫共同使用による保管料削減、共通仕入先からのバーゲニングパワーの利益等々)です。
事例として以下のような損益計算を行います。

A社が買手ですが、M&Aにより2025年度までに得られる利益として①粗利益増加58、
②M&A先からの配当20,③A社で発生するシナジー利益31です。
一方、A社からM&A先への出向者の給与については、給与水準がA社>M&A先の場合
A社は当該差額を出向者に補填しなければなりませんので、それが④▲16です。
以上により、A社単体の合計利益は93となります。

次に、M&A先の営業利益を連結利益として取込みます。それが⑧120です。
一方、M&A先の純資産(資本A/C)100を175で買収しましたので、差額75は
営業権として5年間で償却します。4年間合計で⑨▲60の償却費を計上します。
以上によりM&A先からの利益は60になります。

以上で、A社単体の利益とM&A先利益と合算して連結営業利益は153となりますが、
連結営業利益を考える場合、A社が利益計上したM&A先からの配当金20は控除します。
控除理由は、既に⑧でM&A先の営業利益を取込済ですから、利益の二重計上を
避けるためです。M&A実行から3カ年平均の連結営業利益29をベースとして
投資リスク利益率=年平均連結営業利益29÷投資リスク投資額200=14.5%となります。