中小企業のM&A形態の特徴

1.中小企業で活用されるM&A形態

中小企業M&A形態は、株式譲渡、事業譲渡、会社分割の3形態が殆どです。
その中でも株式譲渡は80%といわれています。

中小企業の売り手は事業承継型であり、殆どが株主であり経営者です。
従い、売り手株主の大きな関心事は、M&A対価の手取額を最大化することに
あります。

一方、中小企業の買い手は決算書に現れない簿外債務リスクの有無が大きな
関心事です。

両者が持つリスクとリターンをバランスさせる上で、売買金額は当然として、M&A形態の
選択が大変重要なポイントになります。
本日は、株式譲渡と事業譲渡について説明します。

2.事業譲渡

売り手が事業の一部又は全部を関連する資産や権利等と合わせて売買する
取引です。

買い手のメリット
何といっても簿外債務リスクを負わないことです。特定承継ですので債権者保護
手続きや登記手続きが不要です。(不動産を取得する場合は登記が必要)
必要な事業だけ引き継げます。

買い手のデメリット
顧客・取引先との契約を個別に相手方の承認を取る必要がありますので
取引先等が多くなればなる程、事務コストが大きくなります。
行政の許認可も新に取得しなければなりません。

税金面では、不動産を取得すれば不動産取得税や登記に伴う登録免許税が
課税されます。

又、M&A対価は原則現金払いなので事業譲渡の規模次第では、買い手の
資金力が必要です。

買い手にとって簿外債務を負わない、登記手続きが原則ないというメリットは
あるもの、譲渡規模が大きくなると契約手続きや許認可の再取得等の手続きが
大きな事務コストになるため、事業譲渡を回避する原因となります。

売り手のメリット
残したい事業、法人格を残せる可能性があります。
対価を現金で受け取れます。

売り手のデメリット
事業譲渡は個別資産等の売却ですから、組織再編税制という優遇措置は
受けられず、売り手会社は資産売却益に法人税が課税されます。

売り手会社に支払われたM&A対価は、退職金や配当等の形で、
売り手株主に支払われることになります。
その結果、売り手会社の資産譲渡益に対する法人税課税と、売り手株主への
所得税課税(累進課税)と2回課税を受けることになります。

株式譲渡形態の場合、譲渡対価は直接売り手株主に支払われますし、株主の
株式譲渡益は分離課税20.315%で完結しますので、手取額は通常、
事業譲渡<株式譲渡になります。

さらに、土地等の非課税資産以外の譲渡資産は消費税が課税されます。
売り手会社は法人税・消費税の課税を受け、株主は手取額が株式譲渡等と
比較して少なくなるという点が大きなデメリットです。

3.株式譲渡

自社株式を第三者に譲渡して経営権を移行させるM&A形態です。

買い手のメリット
包括承継ですので、行政の許認可取得や顧客・取引先との個別再契約、並びに
従業員承継等の手続きが不要です。下記の簿外債務リスクがあるにも拘わらず、
株式譲渡を選択する大きな理由が、この事務手続きが簡便であることです。

買い手のデメリット
買い手にとって株式譲渡は簿外債務リスクを伴います。従い、詳細な買収監査が
必要になります。悪意のある債務隠しは別にしても、中小企業でよく見られるケースは、
決算書にない賃金未払金、サービス残業代等です。M&Aを機に、それまで我慢してきた
従業員が未払賃金を請求してくるリスクがあります。

さらに株主が多い場合、あるいは所在不明の株主がいる場合、買取り手続きが
煩雑になります。

買い手は出資比率100%の株式譲渡を重視します。経営支配権だけであれば
2/3以上の出資比率でも良さそうですが、中小企業の株主には元共同経営者で
あった人や、現社長の前妻がいるといったケースがあります。M&Aを機に、
それまでの複雑な人間関係が表面化し、株主が買い手の経営に非協力的になる、
あるいは株主代表訴訟や帳簿閲覧権を行使するといったリスクがあります。
買い手にとって、不明株主や反対株主等の存在が株式譲渡形態を断念する大きな
要因となります。

売り手のメリット
売り手株主としては、直接、株式譲渡対価が得られる、あるいは株式譲渡益に
一律20.315%の分離課税ですむ、といったメリットがあります。

上記、「事業譲渡」で説明したとおり、通常は売り手株主の手取額は、
株式譲渡>事業譲渡となります。

その他、手続きが簡単である、従業員の雇用維持ができる、事業承継問題が
解決される、売り手会社の法人格は残るため、独立性の維持が可能という
メリットがあります。

売り手のデメリット
 不採算事業があれば、譲渡価額が下がることがあります。

4.事業譲渡と株式譲渡比較

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