後悔しない相続のための生前対策(その4)節税対策
これまでご紹介した「後悔しない相続のための生前対策」
(その1)認知症対策
(その2)生前贈与により財産を減らす
(その3)現金を生命保険に変える
今回は「現金を不動産に変える」を考えてみます。
改めて、生前対策のフレームワークを再掲します。赤文字が今回のテーマです。

(目次)
1.現金を不動産に変えるリスクを考える
(1)キャッシュフローの悪化を忘れるな
(2)納税資金・老後資金は確保されているか
(3)遺留分侵害額請求への資金は確保されているか
2.現金から不動産に変える代表的なケースを考える
(1)収益不動産を取得する場合のリスクと課題
(2)現に所有する不動産の価値を高める不動産投資
(3)居住用不動産を取得する場合のリスクと課題
3.まとめ
1現金を不動産に変えるリスク
(1)キャッシュフローの悪化を忘れるな
最も流動性の高い資産から流動性の低い不動産に変えることは、資金が固定化してしまいます。
1年定期預金であれば、1年間待つ、あるいは途中解約して現金は戻ってきます。企業経営に
おいて、節税のために償却資産を取得して減価償却費を計上し利益を圧縮したが(損益計算書重視)
キャッシュフローの悪化を招いてしまうようなことになります。
(2)納税資金・老後資金は確保されているか
例えば、1億円の現金を不動産に変えることで、不動産評価額が0.6億円となり0.4億円の相続
資産を圧縮できる、(仮に相続税率50%とすると0.2億円の節税)という古典的な節税策を考え
勝ちですが、その節税額0.2億円のために1億円が支出されたために、いざ相続が発生したら納税
資金が不足していて、さらに財産売却をして納税資金を捻出することになります。
勿論、売却益が発生すれば、余計な譲渡所得課税を納税することになります。
あるいは、老後資金が不足して、余生を楽しむ余裕が無くなる、医療費が不足する等のリスクを
抱えることになります
(3)遺留分侵害額請求への資金は確保されているか
現金を不動産に変える場合に、必ず考えておかなければないことは、将来、当該不動産を誰に
相続させるかということです。一番避けなければならないことは、相続人が共有することです。
共有による弊害は大きいです。共有者間で、運用・管理・売却等で意見が一致しないことはよく
あります。場合によって、共有者の一人が、自己の持分を第三者(専門業者等)に売却してしまう
ことも考えられます。共有は正に争族を招きます。
共有を回避するには、一人の相続人等に相続、遺贈させる必要がありますが、遺産分割協議で
争いが生じないように、不動産、現預金等の相続財産を誰に相続させるか、遺言書を作成
しなければなりません。しかしながら、一人の相続人に不動産を相続させ、他の相続人には
現預金等を相続させようとしても、不動産の評価額について相続人間で「多い、少ない」といった
争いが生じます。不動産の評価は特に争いの的です。ここで遺留分侵額害請求の問題が生じます。
仮に、不動産を相続した相続人が遺留分請求額を金銭で支払えないために、当該不動産の持分を
遺留分請求者に譲渡した場合は、遺留分請求額に対して不動産で代物弁済したものとして、遺留分
請求額と取得価額との差額が譲渡所得税の課税対象となってしまいます。
2.現金から不動産に変える代表的なケースを考える
以下、代表的な3つのケースを考えます。
(1)収益不動産を取得する場合のリスクと課題
ここでのポイントは「価値ある不動産」を次世代に円滑につなげられるかです。
「価値ある不動産」とは例えば、賃貸マンションであれば、賃貸収益の投資額に対する
利回りです。これは、自己資金と借入金で取得した物件総額を分母として、家賃収入から
必要経費(管理費、固定資産税、修繕費等)を控除した純収益を分子とします。
いわゆる経営指標であるROA、総資産利益率です。Aはアセット=資産総額です。
言い換えると、アセットを失う最大リスク額です。混同しがちなことは、自己資金を投資額
として分母にしてしまうことです。これは、案件のROAを表しません。参考までに以下の
賃貸物件事例で解説します。

A案件とB案件はどちらが、より「価値ある不動産」でしょうか。
先ず、物権総額は失うものの最大値です、ROAのA、総資産に該当します。これに対する
リターンRは純収益です。比率ROAはR÷Aで求めます。勿論高い比率が良い案件です。
A案件7.3%>B案件5.3%で、A案件が良い案件です。
借入返済余裕率も「価値ある不動産」の判断基準です。これには2つの考え方があります。
表番号8は借入返済額の何倍の純収益があるか、表番号9は借入返済額の何倍の家賃収入が
あるか、という2つの見方です。
表番号8による借入返済余裕率では、A案件2.9倍>B案件2.4倍とA案件がB案件を上回って
います。例えば、借入金返済余裕率3倍とは、純収益が3分の1になっても借入返済ができると
いう意味です。
表番号9の借入返済余裕率では、A案件は借入返済額の4倍の家賃収入があり、B案件の
3.0倍を上回っています。
なお、賃貸物件の空室率が純収益に影響を与えますが、管理費等の経費の中には固定費的な
ものが含まれているので、空室率が上がっても、管理費がその上昇率に応じて減少しない可能性
があることを考えれば、借入返済余裕率は、表番号8の借入返済額の何倍の純収益があるかで
判断する方が安全かもしれません。
(2)現に所有する不動産の価値を高める不動産投資
事例として、貸宅地を所有している人が、この貸宅地の価値を高めるために、借地人から借地権
を取得する場合を考えます。相続税の対象となる貸宅地(底地)は、地主の土地でありながら、
有効活用が難しい上に、固定資産税も負担が重いです。さらに、相続税評価額※より売却する
価額が低くなる傾向があります。 従って、借地権を買い取って、貸宅地を完全な所有権の
土地にすることは、意味のある投資になります。現金を不動産に変えるメリットがあります。
※貸宅地の相続税評価=自用地評価額×(1-借地権割合)
(3)居住用不動産を取得する場合のリスクと課題
相続税の節税に加えて、将来の自宅を確保する目的で、現金を居住用不動産に変えることが
あります。しかし、自宅以外に相続財産がない場合、以下のような問題が生じます。
① 主な相続財産が自宅である場合
相続財産が主に自宅である場合、法定相続で遺産分割すれば相続人の共有となる可能性が
あります。共有にしないためには、自宅を相続する相続人が他の相続人に代償金を支払えば、
共有を回避できますが、代償金を支払えない相続人である場合は、争族に発展する可能性が
あります。結局、自宅を売却して、それぞれの相続分を換価分割することになりかねません。
仮に、被相続人となるべき人が遺言書で、特定の相続人に自宅を相続させると書いても、
他の相続人からの遺留分侵害額請求権には勝てません。
② 配偶者が自宅に居住する場合
① と同じく、自宅が配偶者を含めて相続人の共有になる可能性があります。しかしながら、
配偶者が自宅に住み続けさせるために、被相続人が、配偶者居住権を活用した遺言書を書く
ことで解決する方法があります。
配偶者居住権とは、相続開始時に被相続人が所有していた建物に配偶者が居住していた場合、
配偶者が当該建物に無償で居住できる権利です。単に「配偶者に自宅を配偶者に相続させる」
旨の遺言書では、やはり遺留分請求される可能性があります。
そこで、相続人が妻と長男とすると「自宅を長男に相続させる。妻には配偶者居住権を遺贈する」
旨の遺言書を作ることで解決できます。長男は自宅の所有権を持ち、妻は配偶者居住権を持つ
ことで、長男の理解を得られ安くなると思います。
しかし、長男は配偶者居住権付きの自宅を売却できないでしょう。そのような自宅を買いたいと
思う買主は現れないでしょうから。
まとめ
現金を不動産に変えることは節税対策になりますが、資金の流動性を失い、老後の生活資金、
相続税の納税資金を確保できなくなるリスクが生じます。
不動産以外に現金、有価証券等の流動性の高い財産がない場合、相続時に遺産分割協議が難航する
リスクが生じます。最悪、家庭裁判所への調停手続き、といった事態を招くかもしれません。
現金を不動産に変える場合、遺言書を書いて①公平で納得感のある相続にする、②誰に不動産を
相続させるか明確にする、③慰留分侵害額請求を予測して、請求される相続人に生命保険金の
受取人とする保険契約を締結しておく、といった対策が必要です。