誰も書かなかった「買手としてのM&Aの進め方」
1.買手としてM&Aを進める上で留意すべきこと
中小企業のM&Aに限りませんが、買手としてのM&Aの進め方についてお話しします。以下のフローチャートをご覧下さい。私が経験したM&Aを元に作ったものです。
2.不良債権回収目的でのM&Aに気をつけろ
取引先からの債権回収が滞ったために、取引先を子会社にしたために、さらに損害を
大きくしました。担当営業部門は、できるだけ貸倒れ債権を発生させたくない、
という事情から、バラ色の事業計画を立て無理なM&Aをする場合があります。
要注意です。こういう営業の「思惑」を防止する対策として、業績評価を連結決算
ベースで行うことにしました。つまり自部門とM&A先を合算して業績評価する制度です。
3.商社がメーカーと合弁事業に投資する場合は要注意
日本のあるメーカーとの海外合弁事業に資本参加してエライ目にあったことがあります。
パートナーである日本の親会社メーカーにとって、合弁会社はコストセンターであり儲からなくても
いいのです。コスト削減して安い製品を日本に輸入すればいいのです。
そのメーカーは製造用の原材料を提供して「トレード」で儲ける。さらに、親会社は
合弁会社からの技術指導料を受取っていました。当社は製品を日本に
輸入・販売して利益を得ますが厳しい市況リスクにさらされていました。
不幸にも、それまで日本で定番であった製品から新しい機能を持つ製品に人気が
シフトしつつありましたので、製品は販売不振になり在庫の山となってしまいました。
合弁会社は儲からないので、当社は合弁会社からの配当がありませんでした。
要するに当社にとって利益の源泉は製品販売利益のみだったのです。
メーカーの懐は深いです。
4.M&A先の社長個人色が強い場合は要注意
M&A先の社長個人色が強い場合については、問題をご理解いただけるかと思います。
部下は社長の顔色を伺い、指示待ち症候群で人材が育っていないケースです。
例えば社長が業界の顔である場合、M&A後も暫定的に社長続投をお願いする
ケースはありますが、社長続投のメリット・デメリットを慎重に検討し、M&Aの買手として
経営をコントロールできるか否か判断しなければなりません。
5.撤退ルールは明確にしておく
不幸にしてM&A先の経営が不振になった場合、事業継続か、撤退して清算するか
他社に会社売却をするか、なかなか難しい判断を迫られます。よくあるケースとして
ズルズルと追加支援をしてしまうことがあります。撤退損失を大きくしてしまうケースです。
M&A実行時に、撤退ルールを明確にしてリスクの歯止めをしておくことです。
M&Aに限りません。
新規事業や与信管理等全般に言えることですが、経営者・事業関係者は
「ここまで資金を注ぎ込んで、今更撤退できるか」という心理に陥り勝ちです。
私が見た大きな事業損失は、正にこれでした。どうしようもない状況になってからの
撤退の決断でした。
ある与信不安先への運転資金融資の件で、私は「この融資が返済される可能性だけ検討
して現在の債権額は忘れましょう。運転資金は銀行の責務です」と関係者にお願いし、
結局、銀行融資が行われましたが、まもなくその与信先は倒産しました。
6.M&A投資における役員等人事の重要性を認識する
M&A投資において役員等の人事の重要性は言うまでもありません。
多くの場合、買手会社から出向の形でM&A先に派遣されることになりますが、
派遣される本人のヤル気がM&A成功の鍵となります。派遣される本人の納得感が
得られるか、買手会社として細心の注意が必要です。できれば、M&Aを推進した担当者が
派遣されることが望ましいです。買手会社もしっかり出向者等をバックアップしなければ
なりません。出向者等は、M&A先の役職員から厳しい目で見られ孤独になりがちです。
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