相続税法に基づく非上場株式評価方式は奥深い!
1.非上場株式の評価は一物一価ではない
相続税法に基づく非上株式評価について、お話しします。
上場企業の株式評価は取引所の株価があり客観的ですが、非上場株式は市場の株価という客観的な評価がありません。
非上場株式は、贈与や相続で取得するか、あるいは同族株主間で譲渡される場合が多いです。第三者への譲渡されるケースとしては、取引先との関係維持から株式を持って貰うケースや、従業員が株式を承継するケース、M&Aで株式を売却するケースと様々です。市場価格がないので、力関係で恣意的に株価が決まるケースもあります。
そこで、課税の公平性を保つため国税庁は「財産評価基本通達」により、非常に細かい評価方法を定めています。その評価方法は難解、複雑です。非上場といっても上場企業に近い大会社から小規模な家族的経営の会社まで千差万別です。
以下、ポイントを絞って説明します。なお、総資産の大部分が土地や株式である会社、開業間もない会社、休眠中の会社等は特定会社と呼ばれ、特別の株式評価方式が
ありますが、本日は特定以外の一般的な会社の株式評価についてお話します。
先ず、どういう会社の誰が取得するのか、を判定します。ポイントは経営を支配する株主か否かで株式評価方式が変わります。経営を支配する株主とは、まず「同族株主」です。「同族株主」の定義はややこしいので後述します。
次に、「同族株主はいないが大株主グループに属する中心的株主」が経営を支配する株主に該当します。大株主グループとは、議決権が15%以上を有する株主グループで
あり、その中で単独10%以上の議決権を有する株主を「中心的株主」といいます。
この中心的株主が経営を支配しているという考え方です。
2.「株主判定」による株式評価方式
先ず、これら経営を支配する株主が株式を取得する場合は「原則的評価方式」で、
それ以外の株主が株式を取得する場合は、特例的方式による株式評価になると
ご理解下さい。下記の(A表)、(B表)のオレンジ色の網掛け部分が原則的評価方式、
緑色の網掛けが特例的評価方式の適用を受けます。
(A表)
(B表)
原則的評価方式には、①類似業種比準方式、②純資産価額方式、及び①と②の
併用方式があります。特例的評価方式は、配当実績から資本価値に還元して
評価しますので、配当還元方式と呼ばれます。(以下、「配当還元方式」)
配当還元方式=(年間平均配当額÷10%)×(一株当りの資本金等の額÷50円)です。
年平均配当を10%で資本価値に還元し、発行済株数を額面50円で換算して、
一株当りの評価額を求めます
(評価額が配当還元方式>原則的評価方式の場合、原則的評価方式の選択可)
大株主は経営を支配できるから株価は高く、大株主以外は配当金目的で株式を保有
するので、簡便な算定方法で株価を安く評価するというのが税法の考え方です。
3.「会社規模」の判定による株式評価方式
これまで、どういう株主が取得するかという「株主判定」をご説明しましたが、
次は会社の規模です。冒頭、非上場企業と言っても上場企業に近い大会社から
小規模の家族的経営の会社まである、とお話しました。税法は、会社の規模を
一定の基準で大会社、中会社(中会社をさらに大、中、小の3つに分ける)、
小会社に分け下表のように株式評価方式を定めています。ここでは会社規模
の判定方法、及び評価方式の詳細は割愛します。なお会社の規模判定により
配当還元方式を受けられる株主の株式評価が影響を受けることはありません。
以上、非上場株式評価についてポイントのみご説明しました。
4.相続税法が考える「経営を支配している株主」
相続税法が課税上のバランスを良く考えているな、と感じている点をお話します。
(A表)、(B表)にある配当還元方式を適用される株主に注目して下さい。
同族株主や大株主グループに属する株主ではあるが、中心的な同族株主あるいは
中心的株主ではなく、役員にもなっていない株主で、5%未満の株式しか
取得しない株主は配当還元方式を受けられる、という点です。これら株主は
「経営を支配しない株主」と考えて、配当還元方式で株式を取得できると
税法は判断していることです。
かなり以前の話になりますが、私はあるオーナー企業の社長から息子さんに自社株を
贈与したいと相談を受けたことがあります。社長一族の議決権割合は筆頭株主
グループとして28%保有しており、上記(B表)同族株主がいない会社であり、
社長個人は議決権割合が20%でしたので「中心的な株主」に該当していました。
私は、大株主一族の贈与ですから、原則的評価方式で算定された株価を基に
贈与税が発生するものと理解していました。しかし、よく調べてみると
それは間違いであることに気づきました。息子さんは「中心的な株主」の
息子さんですが、ご自身は他の会社に勤務されており、社長の会社の役員では
ありませんでした。即ち、自社の経営を支配していない株主でしたので、
配当還元方式で5%未満一杯まで贈与できました。
当時、原則的評価方式である類似業種比準価額方式では株価が数千円になる
株式を、配当還元方式で100円を切る株価で贈与することができました。
その節税額は莫大でした。