家族信託について

家族信託についてお話ししたいと思います。家族信託は相続・事業承継において、近年その利用件数が
大きく伸びています。

目次

1 高齢化社会と認知症問題

2 成年後見制度の概要

3 成年後見制度の問題点

4 家族信託の概要

4-1 信託財産が金銭であるケース

4-2 信託財産が不動産の場合

4-3 信託終了時の財産承継

4-4 家族信託のメリットまとめ

5  家族信託と成年後見制度とのコスト比較

6 まとめ

1.高齢化社会と認知症問題

2020年の認知症患者数は630万人ですが、2025年には730万人と高齢者の約20%に達する
見込みです。そして2030年には830万人、約23%となり認知症による資産凍結総額は200兆円、GDPの約10%を占めると予想されています。認知症問題は経済にも大きな打撃を与えます。

認知症は意思決定能力を失うため、以下のような法律行為ができなくなります。
・預金の引出しや解約
・証券取引や口座解約
・不動産の売却
・事業承継や相続税対策
・遺産分割協議
認知症対策方法には成年後見制度と家族信託がありますが。先ず、成年後見制度を見てみましょう。

2.成年後見制度の概要

認知症対策として2000年に成年後見制度が施行されました。成年後見制度は基本的に裁判所の監督下で認知症本人の財産保全を図るものです。成年後見制度には法定後見制度と任意後見制度の2つがあります。

(神奈川県HP「成年後見制度利用までの流れ」より抜粋)

3.成年後見制度の問題点

法定後見制度を例にご説明します。
・後見人は家族とは関係の無い第三者(弁護士、司法書士等)が選ばれるケースが殆どであり、報酬を支払わなければなりません。管理する財産額によりますが5000万円までは、2~4万円/月、5000万円以上は 5~6万円/月です。
・後見人が財産管理を行うため、本人や家族の意思が制限されます。
 例えば孫への贈与や、住宅リフォーム等も後見人の許可が取れず思うようにならない、等です。
・後見人は本人の財産保護を優先させるため、ともすれば硬直的な対応となり、家族との間で
 トラブルになることも珍しくありません。

 任意後見制度の場合、親族が任意後見人となるケースが多く法定後見制度より自由度はありますが、後見人を監督する任意後見監督人が裁判所から選任されることから、やはり裁判所の管理下にあることに変わりはありません。(任意後見監督人の報酬は成年後見人の50%程度)

4.家族信託の概要

家族信託とは一言で言えば、信託法に基づき委託者が自分の財産を一定の目的のために家族等に管理を託すことです。典型的な契約形態は、委託者が受託者と信託契約を締結して委託者自ら受益者として財産から発生する利益を受ける契約です(自益信託と言います)。

受託者は信託目的を遵守して信託財産を管理・運用し、帳簿作成・税務への信託計算書提出等の義務を負います。

家族信託の利用状況を見る上で土地の信託登記件数が参考になりますが、2016年4520件、2020年には11759件(法務省登記統計)と5年間で2.6倍に急増しています。一方、成年後見申立件数は 
同期間で34200件から37200件(最高裁判所 事務総局)3.5%の微増で推移しています。

4-1.信託財産が金銭であるケース

・銀行口座は受託者名義となりますが、金利収入等は受益者(通常=委託者)に帰属します。
 受託者は委託者のために預金管理を行います。
・受託者が預金を引出し、委託者の生活費等を給付することになります。

4-.2.信託財産が不動産の場合

・不動産の名義は受託者に変わります。
・不動産の管理、売却等を受託者が行います。
・委託不動産が自宅であれば委託者(受益者)は居住権を有し、不動産賃借物件であれば
 家賃収益は委託者(受益者)に帰属します。

4-3信託終了時の財産承継

4-4.家族信託のメリットまとめ

・信託財産の所有権は受託者に移転するが贈与税は発生させないことができる。
・委託者が認知症になっても資産が凍結されない。
・信託財産から得られる利益は委託者(受益者)のまま。
・信託財産の管理、処分は受託者が行うので、本人が認知症になっても振込め詐欺等から財産を守れる。
・信託できる財産は財産権であれば何でも可能だが、不動産、金銭、有価証券が多い。
・信託財産の承継先を決められるので遺言機能を果たせる。
・事業経営者は事業承継に利用できる。
・委託者が受益者を子ども・孫等の世代まで指定して、遺言ではできない財産承継が可能。
 これは後継遺贈型信託と呼ばれる。長男に子供がいない、直系の子孫に自社株を譲渡したい、といった場合に利用できる。
 
                   (後継遺贈型信託)

家族信託と成年後見制度とのコスト比較

信託財産の内容、成年後見制度の後見期間等にもよりますが、本事例では
家族信託は成年後見制度の利用よりも1/3程度のコストになります。

6.まとめ

2000年に施行された成年後見制度ですが、認知症本人の財産保護が優先される結果、家族にとっては
本人が健康的で幸せな老後を過ごさせてやりたい、本人の希望していたことが実現できないといった不満が生じ後見人とのトラブルが発生する事例を耳にします。実は私自身も、母の認知症の問題から困った経験があります。父が亡くなり母の認知症が疑われ始めたので、母の自宅の売却手続きを進めた際、共有持分者である母の売却意思確認を司法書士にお願いしましたが大変苦労しました。意思確認できなければ、法定後見人の選任を家庭裁判所に申立てしなければならず、そうなると自宅売却にかなりの時間を要する、
最悪、売却手続きの凍結も懸念されました。そうなると空き家のままになり、近隣住民に迷惑がかかるのではないかと心配したものです。もっと早い段階家族信託等で対応すべきだったと思います。