儲けの原動力を見つける
1.管理会計と財務会計
経営者の皆様は、如何にして業績を向上させるか、儲けるか、日々悩んでおられることでしょう。
しかし、決算書を見ていても、どうやって利益を増やすか分かりません。
何故か。決算書は過去の業績結果だけを表示しているに過ぎないからです。
結果だけとは、業績を左右する要因となる数値が表示されず、儲けの要因となる各数値の掛け算、加減算の結果が表示されるだけ、という意味です。結果として売上〇%、利益は△%減少した
ことは分かりますが、何故そうなったのか、何が経営課題なのか決算書からは分かりません。
例えば、売上です。前期比10%減は分かりますが、原因は売上単価なのか、売上数量なのか
分かりません。会計には、決算書を作成するルールとなる財務会計と、経営課題を発見し経営
判断に資する管理会計と言われる2つがあります。勿論、経営者にとって管理会計が重要です。
例えば売上原価の10%削減は、100%の利益増加になる可能性があります。経費の10%圧縮は、
当該10%相当額の利益増加にしかなりません。それだけではありません。
場合によっては必要な投資をせずに競争力を失う弊害をもたらすかもしれません。
社員のやる気を失わせるデメリットをもたらすかもしれません。あなたの会社は、儲からない
ことを理由にして経費削減、人減らしなどに邁進していませんか?
2.儲けの原動力を探す(その1)
百聞は一見に如かず。簡単な管理会計の事例を見ましょう。
第1表では、限界利益率を20%、第2表では限界利益率70%を基準としています。
先ず第1表です。決算書には登場しない用語「変動費」「固定費」「限界利益」があります。
変動費とは売上と比例して増減する費用のことです。典型的な変動費は仕入原価です。
又、売上に関係なく発生する費用を「固定費」と言います。人件費がその典型です。売上から変動費を差し引いたものが「限界利益」、さらに限界利益から固定費を引いたものが営業利益です。
基準となる販売計画を事例1として、事例2から7まで、販売数量、販売単価、仕入単価、固定費がそれぞれ5%増減した場合、基準の事例1の営業利益はどう増減するかシミュレーションしています。参考までに事例8(黄色網掛け)において、販売単価を引下げた場合に、基準販売計画である事例1の営業利益を確保するために必要な販売数量増加分を計算しています。
どうでしょうか。これまで、皆様は「売上を伸ばせ、経費を減らせ」と檄を飛ばしてこられた
経験がおありだと思いますが、必ずしも的確な指示ではなかったのではないでしょうか。
売上を伸ばすと言っても販売数量ですか、販売単価ですか? 例えば、事例2では、販売数量を5%増やして営業利益5000増加していますが、他の事例と比較してそれほど営業利益は増えません。しかし、事例3のように販売単価を5%アップしたらどうでしょうか。営業利益は25000も増加します。
事例4は仕入単価を5%減らしていますが、販売数量を増やすよりも、大きく営業利益を押し上げています。事例7の固定費削減はどうでしょうか。減らした額4500しか営業利益は増えていません。むしろ、積極投資により固定費増をカバーして余りある販売単価UPや仕入単価削減をもたらすかもしれません。
最悪は、販売数量を伸ばすため販売単価を引下げた事例6です。デフレで販売数量が伸びないからといって販売単価を値下げすると、期待に反して販売数量が伸びなかった場合、営業利益を▲25000減らし赤字に転落します。黄色の網掛け事例8のように、販売単価を5%引下げた場合、事例1の営業利益10000を確保するためには、販売数量を33.4%も増やさねばなりません。至難の業です。安易に販売単価を引下げることは、まさに経営危機を招きます。
販売単価をアップできないならば、仕入先に対して、仕入単価を値引きしてもらい、その代わりに仕入数量を増やす(販売数量を伸ばす)ことも一つの戦略です。
事例4がそのケースです。販売数量を不変にしても、営業利益は20000も増加しています。
以上により、販売単価、仕入単価、販売数量、固定費がそれぞれ単独で増減した場合の営業利益増加の原動力ランキングは、下記のようになります。
3.儲けの原動力を探す(その2)
次に第2表は、限界利益率70%を基準としたものです。この表は大規模な設備投資型企業をイメージした「限界利益率が高く固定費も大きい」企業です。
第1表と同じく、販売数量、販売単価、仕入単価、固定費がそれぞれ5%増減した
場合に、基準となる事例9の営業利益はどう増減するかをシミュレーションして
います。
第2表は1表と比較して、限界利益率が70%と高く固定費が大きいケースです。限界利益率が
高いということは販売数量の重要度が高まり、儲けの強い原動力となります。逆に仕入単価はその重要度が低下して原動力が弱くなります。又、固定費が大きいため、その削減効果は当然大きくなります。
黄色の網掛け事例16では、販売単価を5%引下げた場合に事例9と同じ営業利益30000を確保するためには、販売数量7.7%UPが必要であることを示しています。前述した第1表の事例8と比較すると
必要となる販売数量は33.4%増から7.7%増へ大幅に減少していることが分かります。
以上をまとめると、次のようになります。販売数量と固定費のランキングアップ,仕入単価の
ランキングダウンが分かります。
ビジネスモデルに応じた「儲ける戦略」が必要ですが、今回ご案内した管理会計の基本をベースに
「儲けの原動力」を見極めて頂くことを願っております。