事業承継に絡む「急ぎ」の相続対策

1.後継者への自社株贈与

1)一般的相続対策
相続対策は生前の対策と相続発生後の対策の二つです。
生前の対策としては、暦年贈与と相続時精算課税贈与(以下、精算課税贈与)の
活用が重要ですが、さらに事業承継に絡む課題としては、重要な相続財産である
自社株の評価額を下げておくことです。

評価額を下げる方法については、別項でご説明するとして、本日は、自社株贈与と
経営者の自社への貸付金について、急ぎの相続対策をお話しします。
なお、本稿では事業承継税制(非上場株式の納税猶予)の適用を受けない
ことを前提にします。

2)暦年贈与
暦年ベースで年間110万円までは非課税で贈与できます。ただし、相続開始前
3年以内に行った暦年贈与は相続財産に加算されますし、特に自社株評価額が
多額の場合、非課税措置をできるだけ多く得られるよう、計画的に早期に
暦年贈与を検討すべきです。

さらに、2020年度税制改正大綱で暦年贈与の廃止が検討されました。
今後、暦年贈与制度がなくなる可能性があり、急ぐべきです。
注意点としては、3年以内の暦年贈与額を相続財産に加算する場合、贈与税は
控除できますが、相続税を超える贈与税の還付はされません。
これは、精算課税贈与で納付した贈与税は、相続税を超過した部分も全て
還付されますので、暦年贈与は不利となります。

相続財産が多い場合、110万円の基礎控除額を超えて贈与することも検討すべきです。
どこまで贈与するかの判断基準は、相続が発生した場合の相続財産額と相続税を
予測し、その予測実効税率を下回る贈与税率適用分まで贈与することです。

3)精算課税贈与
この制度は60歳以上の直系尊属から20歳以上の子・孫へ贈与する場合に
利用できるものです。これは言わば相続税の前払的制度です。贈与額が2500万円
までは非課税ですから、暦年贈与とは異なり多額の贈与をすることができます。
2500万円を超える贈与分には一律20%の贈与税になります。相続時に改めて全ての
精算課税贈与額を相続財産に加算して相続税を計算し、納付済みの贈与税を
控除します。精算されますので基本的には節税になりませんが、
精算課税贈与の対象となる財産によっては、節税効果が得られます。

例えば自社株です。相続時までに評価額がUPすることが予想される場合には
精算課税贈与を利用すれば、相続時の自社株評価は贈与時の株式評価額が
適用されますから、低い価格の相続財産となり節税ができます。

但し、業績不振等により相続時の評価額が下がれば結果として「増税」に
なってしまいますが--。
暦年贈与と精算課税贈与両者は併用不可です。一度、精算課税贈与を選択したら、
それ以降は暦年贈与に戻れませんので、精算課税贈与への移行は慎重にタイミングを
見極めなければなりません。

2.経営者から会社への貸付金

オーナー企業でよく見られる経営者から会社への貸付金ですが、当然相続財産に
なります。貸付金があるということは、会社の財務内容はそれほど健全ではない
かもしれません。仮に会社が債務超過であっても、当該貸付金の相続財産の評価は
額面金額です。会社の業績が不振で回収不可能な貸付金であれば、経営者の
相続が発生する前に相続財産から消すことを検討する必要があります。
それには、貸付金を出資に切替える方法が考えられます。
DES「デット・エクイティー・スワップ」と呼ばれる「債務の株式化」です。
これで貸付金はなくなります。

但し、会社側から見れば、貸付金という現物出資を受入れることになり、
金銭以外の出資は時価で評価されます。例えば貸付金が1億円、その時価は
税務上0.4億円と評価されると、借入金1億円が消滅して資本金は0.4億円増加し、
差額の0.6億円が債務免除益と認定されて課税されます。

会社に繰越欠損金があれば、債務免除益はその範囲内で免除益と相殺されます。
DES実行後も会社が債務超過であれば、DESで得られた自社株の評価額はゼロ
ですから、相続財産である貸付金1億円消滅した分だけ相続税が節税された
ことになります。

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