企業価値経営目指して (その4)

1.企業価値経営の重要性

私が大手総合商社に入社した頃、1974年ですが、そのころ、私の上司であった
経理審査本部長が「これからはBS経営だ。売上、利益だとPLだけ
達成すればいいというものではない」と仰っていたことを鮮明に覚えています。
企業価値経営という考えを持ちでした。

「企業価値経営」を導入する4つの目的を確認したいと思います。
・企業価値を知ることでM&Aを行う際、相手との価格交渉を有利に
運ぶことができる。
・将来の具体的な経営目標となり役職員の士気向上に繋がる。
・FCF重視の経営となり、無駄な資産を圧縮して最も重要な経営指標である
総資本利益率を改善できる。
 ・FCF改善により、次の重要な投資機会の資金に充当できる。

少子化、コロナ、デフレ。経営を取り巻く環境は厳しさを増しています。
厳しい環境の中で、経営者の方々は「やるべきこと」「やるべきではないこと」を
しっかり取捨選択されていらっしゃいますか?

重要度、緊急度を睨みながら経営者として的確にご自分の出番を見極めて
いらっしゃいますか?
実務経験豊富だから、事務員が決算等で忙しくしている横で、つい手伝って
しまうようなことはありませんか?
電話にもつい応対してしまうようなことはありませんか?

勿論、緊急かつ重要な経営課題には経営者が先頭に立って解決しなければ
なりませんが、大事なことは、今、緊急度はないが、重要な経営課題を
発見し、緊急度がない状態にある時に、その課題を解決しておく、
対応策を決めておくことが経営者の一番の「やるべきこと」では
ないでしょうか。

2.経営戦略

経営戦略とは、まさに経営の方向性を示すことですので、それを間違うと、取返しの
つかない事態を招くことにもなりかねません。東京から博多行きの列車に乗車
すべきところ、盛岡行きに乗車すればビジネスチャンスを失う「取り返しできない」結果に
なるかもしれません。大阪止まりの列車であれば、「取り返せる」かもしれません。
戦略が的確であれば、戦術を間違っても修正が効きます。
絶対に盛岡行きに乗車してはいけません。

企業価値を理解しないまま、もっと売ってこい、コストを下げろと叱咤しても、
的確な指示ではないケースがあります。競争激戦区では、売価を上げられないから、
数量を伸ばす以外に売上を伸ばす術はないのかもしれません。
「儲からないから値上げしろ、もっと仕入コストを減らせ」と檄を飛ばされて
いる間に、ビジネスチャンスはどんどん逃げていきます。

利益率の低い商品ではそれほど、利益は伸びないかもしれません。
無理をして売る見返りに手形を長くして回収条件を悪くするかもしれません。
それどころか、無理をしたばっかりに貸倒れ債権が発生するかもしれません。
売上を伸ばすために営業マンを増やして固定費増を招くかもしれません。

ご存じかもしれませんが、固定費増は「損益分岐点」を押し上げ、赤字に
陥りやすい体質になります。

それよりも、仕入れ先に対して、数量を増やすから値引きしてもらう戦術が功を
奏するかもしれません。

余談ですが、大手総合商社、伊藤忠商事の行動指針に
「三方(売り手、買い手、世間)よし」「一人の商人、無数の使命」があります。
自社の利益だけを追求する経営はいつまでも持続できません。取引先の
利益が自社の利益に帰ってくる、ということだと思います。

私が尊敬する伊藤忠商事の岡藤会長は、「取引先に儲けて貰う。その儲けの
仕組みを自分が主導できるか」を追求し、次々に新しいビジネスモデルを築いて
こられた天才的経営者です。岡藤会長の経営戦略は、他社の利益と
自社の利益を両立させることですから、持続可能な経営戦略だと思います。