企業価値向上を目指して (その2)
1.「利益拡大」と「無駄な資産を持たない」
DCF法により算定される企業価値を向上させる方法についてお話しします。
一つ目、当然ですが「利益拡大させること」、二つ目「無駄な資産」を持たないこと。
これがFCFを増やしていく定石です。FCF重視です。
稼いだキャシュをベースに企業価値が計算されますので、売上金を早く現金化する
会社の方が、遅い会社よりも企業価値は高くなります。
例えば、同じ利益を計上しても、回収が遅ければ売掛金という無駄な資産を
持ち続けることになります。即現金回収する会社の方が企業価値は大きく
なります。過大な在庫を抱えていることも無駄な資産です。事業に活用
しない遊休地等も無駄な資産です。
それでは、どうやって現金を増やすか。この低金利の時代に回収が遅くとも、
それほど金融コストは変わりません。しかし、コストの問題ではないのです。
繰返しになりますが、キャッシュを早く生み出すことが企業価値向上の要諦です。
企業価値49億円の会社が、買掛金の支払を1.4ヶ月から2.4ヶ月に伸ばしたら
企業価値が60億円に増加した事例がありました。
過大な在庫を如何に圧縮するか。よくある課題です。担当営業と経理部門との
摩擦になりやすい課題です。効果絶大な方法は、在庫評価損の計上ルールを
作ることです。営業は「売れるから在庫処分できない」と言いますので、経理は
「処分しないなら評価損を計上する。売れた時に評価損は取崩して利益になる
から異存ないですね」ということで合意すればいいです。
キャッチフレーズは「長期在庫の責任は自分が担当している間に決着させる」です。
企業価値を知ることは大変重要です。企業価値計算は、M&A目的だけの
ものであってはなりません。「当社はM&Aを予定していないから、企業価値計算は
不要だ」と考えていらっしゃいませんか。実は私も企業価値計算を始めたころは、
M&Aのための計算という意識がありました。しかし、その向上を図ることは、
会社の最も重要な経営目標になりうることを認識しました。
2.企業価値経営の重要性
私が重視していることは、企業価値を理解し価値向上策を経営目標にすれば、
会社の財務体質強化に繋がることにあります。
毎年お決まりの、売上・利益目標からの脱却です。御社の社員は疲れて
いませんか。どこまで業績を伸ばせばいいの、ゴールはどこですか、と。
経常利益10億円を目指そうと言うより、企業価値100億円を目指そうと
した方が役職員の士気が向上するのではないでしょうか。何故か---。
「売上、利益だけではないぞ。売掛金早期回収、在庫圧縮に頑張れば給料が
上がるぞ」というインセンティブです。全役職員の士気向上に繋がります。
企業価値を向上させるには、単に利益だけ増やせばいいというものではなく
会社のBS、FCFまで考えた総合的な経営指標を追求することになるからです。
まさに「企業価値経営」です。
「企業価値経営」を導入する4つの目的を確認したいと思います。
・企業価値を知ることでM&Aを行う際、相手との価格交渉を有利に
運ぶことができる。
・将来の具体的な経営目標となり役職員の士気向上に繋がる。
・FCF重視の経営となり、無駄な資産を圧縮して最も重要な経営指標と言われる
総資本利益率を改善できる。
・FCF改善により、次の重要な投資機会の資金に充当できる。
余談ですが、コストアプローチやマーケットアプローチで計算された企業価値を
基に、それでは、どうやって企業価値を向上させられるか? 難しいですね。
コストアプローチでは、資産の価値を高めれば企業価値は上がりますが、どうやって
資産の価値を高めるか、漠としています。マーケットアプローチでは、類似企業の
株価はコントロールできません。